さるかに合戦は人に意地悪をすると罰が当たったり、周りから非難される教訓がふくまれています。
寝かしつけに使用できるように、セリフ調になっています。ぜひお子さんに読み聞かせてあげてください。
むかし、むかし~
むかし、むかし、あるところに、猿と かに がいました。
ある日、猿と かに はお天気がいいので、遊びに出かけました。
その途中、山道で猿は柿の種を拾いました。
またしばらく行くと、川のそばで かに がおむすびを拾いました。
かに は、
「こんないいものを拾った。」
と言いって猿に見せると、猿も、
「わたしだってこんないいものを拾った。」
と言って、柿の種を見せました。
けれど猿も本当はおむすびがほしいものですから、かにに向かって、
「どうだ、この柿の種と取りかえっこをしないか。」
と言いました。
「でもおむすびの方が大きいじゃないか。」
と かに は言いました。
「でも柿の種は、まけば芽が出て木になって、おいしい実がなるよ。」
と猿は言いました。そう言われると かに も種がほしくなって、
「それもそうだなあ。」
と言いながら、とうとう大きなおむすびと、小さな柿の種とを取りかえてしまいました。猿はうまくかにをだましておむすびをもらうと、見せびらかしながらうまそうにむしゃむしゃ食べて、
「さようなら、かにさん、ごちそうさま。」
と言って、のそのそ自分のうちへ帰かえっていきました。
かに は柿の種をさっそくお庭にまきました。そして、
「早くめを出だせ、柿の種。出ださぬと、はさみでちょん切るぞ。」
と言いました。すると間まもなく、かわいらしい芽がにょきんと出ました。
かに はその芽に向むかって毎日まいにち、
「早はやく木になれ、柿の芽よ。ならぬと、はさみでちょん切るぞ。」
と言い続けました。
すると柿の芽はずんずんのびて、大きな木になって、枝が出て、葉が茂って、やがて花が咲きました。
かに はこんどはその木に向むかって毎日、
「早く実がなれ、柿の木よ。ならぬと、はさみでちょん切るぞ。」
と言いました。
すると間もなく柿の木にはたくさん実がなって、ずんずん赤くなりました。
それを下からかには見上みあげて、
「うまそうだなあ。早く一つ食べてみたい。」といって、
手をのばしましたが、背がひくくってとどきません。
こんどは木の上に登ろうとしましたが、横歩きですからいくら登ろうとしても落ちてしまいます。とうとうかにもあきらめて、それでも毎日、くやしそうに下からながめていました。
サル再来!!
するとある日猿が来て、木になった柿を見上げてよだれをたらしました。
それを見て かに は、
「猿さん、ながめていないで、登って取ってくれないか。お礼には柿を少し上げるよ。」
と言いました。
猿は、「しめた。」
と言わんばかりの顔をして、
「よしよし、取って上るから待っておいで。」
と言いながら、するする木の上に登っていきました。
そして枝と枝との間にゆっくり腰をかけて、まず一つ、うまそうな赤い柿をもいで、わざと、「どうもおいしい柿だ。」と言い、むしゃむしゃ食べはじめました。
かに はうらやましそうに下でながめていましたが、
「おい、おい、自分ばかり食べないで、早くここへもほうっておくれよ。」
と言いますと、猿さるは、「よし、よし。」と言いながら、わざと青い硬い柿をもいでほうり出しました。
かに はあわてて拾って食べてみますと、それはしぶくって口がまがりそうでした。
かに が、
「これこれ、こんなしぶいのはだめだよ。もっとあまいのをおくれよ。」
と言いますと、猿さるは「よし、よし。」と言いながら、もっと青あおいのをもいで、ほうりました。ふたたび かに が、
「こんどもやっぱりしぶくってだめだ。ほんとうにあまいのをおくれよ。」
と言いますと、猿さるはうるさそうに、
「よし、そんならこれをやる。」
と言いながら、いちばん青い硬いのをもいで、待まっている かに の頭をめがけて力いっぱい投げつけると、かに は、「あっ。」と言いったなり、ひどく甲羅をうたれて、目をまわして、ケガしてしまいました。
猿は、「うるさいんだよ。」と言いながら、
こんどこそあまい柿を一人ひとりじめにして、おなかのやぶれるほどたくさん食べて、その上両手にかかえきれないほど持って、あとをも見ずに逃げて行ってしまいました。
お母さん かに のために
猿が行ってしまったあとへ、そのときちょうど裏の小川へ友だちと遊びに行っていた 子がに が帰かえって来きました。見みると柿の木の下に 親がに が甲羅をくだかれてケガしています。子がに はびっくりしておいおい泣き出だしました。泣きながら、「いったいだれがこんなひどいことをしたのだろう。」と思ってよく見ますと、さっきまであれほどみごとになっていた柿がきれいになくなって、青い青いしぶ柿ばかりが残っていました。
「じゃあ、猿のやつがケガさせて、柿を取っていったのだな。」
と、かに はくやしがって、またおいおい泣き出しました。
するとそこへ栗がポンポンとはねて来て、
「かにさん、かにさん、なぜ泣くの。」
と聞きました。子がに は、猿が 親がに をケガさせたから、かたきを討ちたいと言うと、
栗は、
「にくい猿だ。よしよし、おじさんがかたきをとってやるから、お泣きでない。」
と言いました。
それでも 子がに は泣いていますと、こんどは蜂がぶ~んとう来て、
「かにさん、かにさん、なぜ泣くの。」
と聞きました。
子がに は猿が 親がに をケガさせたから、かたきを討ちたいと言いました。
すると蜂も、
「にくい猿だ。よしよし、おじさんがかたきをとってやるから、お泣きでない。」
と言いました。
それでも子がにがまだ泣ないていますと、こんどは昆布がのろのろすべって来て、
「かにさん、かにさん、なぜ泣くの。」
と聞きました。
子がに は猿が 親がに をケガさせたから、かたきを討ちたいと言いました。
すると昆布も、
「にくい猿だ。よしよし、おじさんがかたきをとってやるから、お泣きでない。」
と言いました。
それでも 子がに がまだ泣いていますと、こんどは臼がころころころがって来て、
「かにさん、かにさん、なぜ泣くの。」
と聞きました。
子がには猿が親がにをケガさせたから、かたきを討ちたいと言いました。
すると臼も、
「にくい猿だ。よしよし、おじさんがかたきをとってやるから、お泣なきでない。」
と言いました。
子がに はこれですっかり泣きやみました。栗と蜂と昆布と臼とは、みんなよって、かたき討うちの相談をはじめました。相談がまとまると、臼と昆布と蜂と栗は、子がに を連れて猿のうちへ出かけて行きました。
猿へのお仕置き
猿はたんと柿を食たべて、山へでも遊びに行ったみたいで、おうちにはいませんでした。
「ちょうどいい。この間にみんなでうちの中にかくれて待っていよう。」
と臼が言いますと、みんなはさんせいして、いちばんに栗が、
「わたしはここにかくれよう。」
と言いって、炉の灰の中にもぐり込みました。
「わたしはここだよ。」
と言いながら、蜂は水がめの陰にかくれました。
「わたしはここさ。」
と、昆布は敷居の上に長々と寝そべりました。
「じゃあ、わたしはここに乗っていよう。」
と臼は言って、かもいの上にはい上がりました。
夕方になって、猿はくたびれて、外から帰って来ました。そして炉ばたにどっかり座り込んで、
「ああ、のどが渇いた。」
と言いながら、いきなりやかんに手をかけますと、灰の中にかくれていた栗がぽんとはね出して、とび上がって、猿の鼻面を力まかせにけつけました。
「あつい。」
と猿はさけんであわてて鼻面をおさえて、台所へかけ出しました。そしてやけどをひやそうと思って、水がめの上に顔を出しますと、陰から蜂がぶんととび出して、猿の目の上をいやというほど刺しました。
「いたい。」
と猿はさけんで、またあわてておもてへ逃げ出しました。逃げ出すひょうしに、敷居の上に寝ていた昆布でつるりとすべって、腹んばいに倒れました。その上に臼が、どさりところげ落ちて、うんとこしょと重しになってしまいました。
猿は赤い顔をありったけ赤くして苦しがって、うんうんうなりながら、手足をばたばたやっていました。
そのとき、お庭の隅から 子がに がちょろちょろはい出してきて、
「親のかたき、覚えたか。もう悪さするじゃないぞ。」
と言いながら、はさみをふり上げて、猿のしっぽをちょきんとはさみではさみました。
お猿はこれ以降は悪さをしないようになったんだとさ。おしまい。
さいごに、感想
さるかに合戦を久しぶりに読むと、調和を大切にする日本の文や、相手に害をなすように一人勝ちしても最後には損をするという大人も気を付けないとなという教訓があるなと思いました。
子供だけではなく、自分の行動を振り返るいい機会になるかもしれません(笑)
昔の文章で子供たちが理解できないんじゃないかと思う部分も訂正して噛み砕いております。
皆さんの寝かしつけにもご利用いただけると幸いです。
この文章は青空文庫という著作権フリーになった書物を参考にアレンジして掲載しております。
もし何かありましたら問い合わせフォームからご連絡いただけると幸いです。
参考データ
楠山 正雄. さるかに合戦. 青空文庫.
(参考:2022/10/19)
図書カード:No.18334
作家情報: 楠山 正雄(くすやま まさお)
生年:1884-11-04 没年:1950-11-26
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